2001-07-06

■公選法、ネットがもたらす空洞化  求められる「ネチズン」の議論参加


千葉県知事選では事前のネット、メール活動が奏効した=3月25日
 【問題】参院選の○○候補を支援する勝手連サイト。選挙事務所とは関係ない市民運動だから、選挙期間中のホームページの更新は自由。答えは○か×か――。

 参院選告示が目前に迫り、読者の中にも“勝手連”サイト開設を計画している人がいるかも知れない。普段は縁のない公職選挙法(公選法)だが、インターネットとのかかわりからみる限り、「公職法はネットに対応しきれない」というより、「ネットが公選法を骨抜きにしている」とさえ見える。総務省は、参院選終了後、選挙でのネット利用について、問題点を洗い出す懇話会を開く予定だ。市民側から声を上げるためにも、“公選法の不思議”をチェックした。(太田阿利佐)

■■ネット画面は「文書図画」

 【答】結論からいうと×。

 政治活動は選挙期間中も行えるが、選挙期間中には一部(演説会など)が規制される。逆に選挙運動は、選挙期間中だけ許されている。選挙運動とは「特定の選挙で、特定の候補者を有利にする行為」。ホームページを使った通常の政治活動の紹介なら更新できるが、「○○をよろしく」「参院選で一票を」といった表示は、インターネット画面という「文書図画」を不特定多数にまく「頒布(はんぷ)」にあたると判断され、公選法違反になる。

 公選法は、候補者や陣営だけでなく、いわゆる勝手連や市民運動にも適用される。公選法では、全ての選挙運動にかかる費用は、出納責任者にしか出せないことになっている。全ての選挙運動……特定選挙で特定候補者を有利にする行為は、全部……を対象にしている、とても厳しい法律なのだ。つまり、勝手連が勝手に候補者の応援サイトを作った場合、開設・運営費用をホームページ開設者が負担したことになり、支出制限条項違反に問われる。では、無料ホームページサービスを利用したらどうか。その場合は、サービスの提供者が同法違反に問われる。ISPには、ちょっとドキッとする話だ。

 また、有権者の自発的な登録によるメーリングリストを使った活動も、抵触するケースがある。選挙スタッフなどごく限られた範囲での事務連絡など、内部行為はOKだが、何十人、何百人にも「20日の演説会のテーマ案を寄せて下さい」といったメールを送ると「大量の文書頒布」にあたってしまう。

 現在の公選法では、選挙期間中に配って(送って)よい「ビラとはがき」の枚数がきっちり定められている。それ以外は送ってはならない。これまでにも「推薦依頼」「役職委嘱」の連絡を装って、大量のはがきを送った例もあり、それらが違反認定されていることから、大量のメール送信も要注意というわけだ。

 さらに、「投票率を上げよう」という目的で、候補者の演説会の一覧を個人的なホームページに掲げることでさえ、「特定の候補に有利な行為」と認定されれば違反になる。どういう順に並べるか、全ての候補者を平等に扱っているかなどが問題になり、故意や過失で特定候補の演説予定を落としたり、間違えたりした場合、告発される恐れもある。お気に入りの候補者の名前や予定だけ、赤字にする……などはかなり危険。ちなみに、「○○候補を落選させよう」という落選運動は「特定の候補者を有利にする行為」ではないため、違反にはあたらない。

■■「土俵」狭める現行法

 とにかく、モノと金をしばって「狭い、狭い土俵の中で、平等に勝負しようというのが公選法」(総務省自治行政局選挙部選挙課)。これでは、市民がネットを活用して、政治参加の重要手段である選挙にかかわることなど、到底無理だと思いたくなる。ネット市民という意味の「ネチズン」は座して見ているしかないのだろうか。

 選挙のプロたちはどう対応しているのだろう。

 「現在の公選法ではインターネットをどこまで活用できるのか明確でない。しかし、明確でないものに従って、何もやらなくていいのか、ということにはならない」と話すのは、公明党本部のIT推進室。同党では、参院選期間中、候補者個人のホームページ更新、開設は行わないが、党のホームページ更新や党のメールマガジン発行は続けて行う。こうした姿勢は、自民党、民主党などにも共通している。

 ご存知のとおり、参院選は比例区と選挙区がある。今回から個人候補者名を記入することになったものの、比例区は実質的には各党の政策を争うものだ。「党の政策アピールは通常の政治活動。われわれには、前回参院選、同衆院選、都議選などのノウハウもある」(自民党広報本部マルチメディア局・栗林啓ニ氏)、「行政にできるのは、あくまでも法解釈だ。『公選法に抵触する恐れがある』という言い方は、結局は裁判を受けてみなければ分からないということ。もし、同法違反容疑で警告を受けるようなことがあれば、速やかに改めなければならないが、ネットは市民型選挙の時代の重要なツールだ」(民主党広報委員会・中山伊知郎副部長)と話す。

 自民党は、今週末にもホームページからの寄付金受付を開始する。iモードからも献金でき、日本の政党としては初の試みだ。民主党は5日、政策を議論する電子会議場を開設している。

 選挙は戦い。じっと座っていれば負けだ。水面下では、グレーゾーンぎりぎりまで踏み込んだ戦いも展開されている。「ホームページは空中戦、電子メールは潜水戦」と話す関係者もいる。

 民主の中山副部長は、小泉内閣メールマガジンのこんな問題も指摘する。「米大統領選では、有権者へのアピール度は、ホームページよりも電子メールの方がずっと高かったと言われている。小泉内閣の政策は、イコール与党の政策。それをPRするメールを税金で200万部も出すというのは、各党が政策で争っている今、果たしてフェアな選挙環境といえるのか」。

■■想定外だったネット

 現行の公選法が、想定していないもの。その一つが、党の支持者でも、後援会組織でも、その隠れメンバーでもない、“土俵の外”の無党派市民の選挙運動への参加だ。そしてもう一つが、市民運動の情報発信力を飛躍的に高めるインターネットの公開性の高さと情報発信力だ。

 候補者たちの人柄や能力をうんぬんしたり、だれかのへの応援を市民が個人として呼びかけることは、これまでもあった。いわゆる床屋談義もそうだ。しかし、床屋がネット掲示板になったとたん、情報は不特定多数に発信され、「頒布(はんぷ)行為」として法規制に取り込まれる。

 総務省自治行政局選挙部の平川薫・選挙課長補佐は「現行法の解釈で、解決できないケースが出てきていることは事実だ。現在の体系では、選挙運動に利用できるビラなどの量的規制があるが、ネットを認めれば、量的規制もあまり意味はなくなる」と話す。そもそも、ネット上の床屋談義を全て取り締まれるはずもない。選挙運動の定義から、抜本的に考えていかなければならないのだ。

 6月29日、警察庁は参院選前の選挙違反の警告件数を発表した。約900件のうち、インターネットにかかわるものはわずか5件。ホームページで特定候補者への応援を呼びかけた“典型的な”事例だけだ。しかし、現状の公選法のままでは、ネットを使った“勝手連”や市民活動は、いつ相手候補から告発されるかも分からない。

 総務省は参院選後のこの秋にも、ネットを使った選挙のメリット、デメリットなど、問題点を整理する懇話会を発足させる。公選法改正については、基本的に国会での政党間の議論となるため、論点を洗い出そうというわけだ。ネットが市民の情報発信力を飛躍的に高めるだけに、逆に、既製政党が市民のかかわる余地を狭める方向に動かないとも限らない。今後の改正の動きに対して、ネット市民側から積極的に発言していく必要がありそうだ。